10月2日(土)午後5時半から、毛利敬親公をまつる野田神社(山口市天花1)の境内にある能楽堂で、「薪能」が開催される。同能楽堂での薪能は、2016年以来5年ぶり。
※最初の記事では「2018年7月以来3年ぶり」としていましたが、その年の会場は台風直撃により山口市民会館に変更されました(2021年9月22日追記)
今年は、毛利元就公が亡くなり450年、毛利敬親公が亡くなり150年という節目の年。また、同能楽堂の移設修復・山口市有形文化財指定から30年になる。これらを記念して、企画された。
能舞台の周囲にかがり火が灯される中で演じられる薪能は、厳かで幻想的。夕方のたそがれ時から、日が落ちて少しずつ暗くなっていき、そこにかがり火が焚かれる。その幽玄な世界は、会場でしか感じられない特別なものだ。
メインの演目は、舞台上に幾筋もの蜘蛛の糸が放たれ、能初心者や初めて観る人でも十分に楽しめる「土蜘蛛」。病に伏した源頼光のもとへ一人の僧が現れ、「わが背子が来べき宵なりささがにの~」と歌を詠じるや、頼光に向かって蜘蛛の糸を投げ掛け、消えるようにして去っていく。そして、家来の独武者がその土蜘蛛を退治しに行くが…。出演は、観世流能楽師の今村嘉太郎。祖父と父が重要無形文化財保持者という能楽師の家に1980年に生まれ、2歳半で初舞台。現在、福岡を拠点に各方面で活躍中だ。
その前に上演される狂言「附子」もポピュラーな演目。主人から留守番を言いつけられた太郎冠者と次郎冠者のやり取りが楽しい。出演するのは、和泉流の野村万禄。1966年生まれで、伯父の野村萬(人間国宝)に師事し、2000年に二世万禄を襲名した。福岡を拠点に、九州各地に稽古場を開設し、狂言の普及と発展に努めている。
他にも、山口鷺流狂言保存会による狂言「千鳥」、長宗敦子による舞囃子「羽衣和合之舞」、仕舞「玉之段」(今村哲朗)「笠之段」(大西礼久)も上演される。鷺流狂言が他の流儀と共演することは珍しく、薪能には初めて出演するという。
入場料は、指定席が6000円で、自由席が5000円。指定席は同神社のみでの販売で、自由席は山口観光コンベンション協会、山口市民会館、YCAM、C・S赤れんがなどで購入できる。問い合わせは、米本太郎さん(TEL090-6406-0245)へ。
※指定席は完売したとのことです(2021年9月22日追記)
1936年建築の野田神社能楽堂 現在地へは1991年に移設・修復
野田神社能楽堂は、1936(昭和11)年に「明治維新70年」を記念して、かつての長州藩主・毛利家が建築し、野田神社に寄進した。だが、建築の5年後に太平洋戦争が始まり、戦後も使われることは少なく、1959(昭和34)年に行われた(旧)山口市制30周年記念公演を最後に長い間閉鎖されていた。その後、1968(昭和43)年の野田神社境内の一部売却や市道新設に伴い、同能楽堂は野田学園グラウンドの片隅に取り残される形となり、20年以上放置。建物の損傷も激しくなったが、1991年4月から8月にかけて、約120メートル離れた現在地への移設・修復工事がされた。
総ヒノキ造り238平方メートルで、本舞台に加え、橋掛かり、鏡の間、楽屋などを備える。本格的な造りの、室町時代風の優れた建築様式だ。本願寺北能舞台(京都府)や厳島神社能舞台(広島県)などと比べても引けを取らない、全国屈指のものだという。
ちなみに「能楽」とは、能と狂言とを抱合する総称で、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている。能ではシリアス芸(悲劇)が、狂言ではコメディ(喜劇)が演じられる。