釣り好きの人の買い物に付き合って、釣り具屋さんに行った。私は釣りなどしないのでなにもかもが珍しかった。まず、店内がカラフルなのに驚いた。色彩に満ちている。昔の地味な色の竿の並んだ薄暗い店内ではない。色の主流をなすのがルアー。ゴムやひらひらする紐等で作られた餌になる虫の偽物。こんなもので魚は騙されるのか、と私はまだ半信半疑だが、飾られている釣果の写真を見ると本当なのだ。
店内を一回りして、生き餌の水槽を覗いた。魚の餌になるゴカイやミミズのような生き物がごそごそ動いていた。その中にいたムシに目が止まった。
体長約十センチ、胴回り二センチあまりで蛇腹。薄いピンク色をして、前と後ろに口がついている。縮小したカラスの嘴のような形。両方から水を吸い込んでいるようで、右や左から腹が膨らんでくる。見ていると、口から細い粘液が糸状に出てきた。水を吸い込む以外さしたる動きもないのに、なにもかもわかっているようなオーラを発している。空洞だろう蛇腹の体内には米粒ほどの仙人が生活しているような気がしてきた。糸状の粘液は、仙人のあげる炊飯の煙だ。
環形動物門ユムシ動物ユムシ網ユムシ目ユムシ科の海産無脊推動物。やはり単純な生き物ではない!