写真は、吉田松陰が実際に使用した雅印の印影です。「吉田矩方」と刻まれた、一辺が3.4センチ、蝋石製の白文方印で、当館蔵の「吉田松陰自賛肖像(中谷本)」をはじめ、松陰の主な書画に捺される代表的な印です。
書画鑑定の際、印影は重要な決め手となります。基準は、正真正銘の作品や、信頼できる落款事典などです。印影の大きさはもちろん、文字の形や太さなど厳密に比較する必要があります。「似ている」ではなく、「同じ」でなければなりません。写真をよく見ると、右下が斜めに欠けているのがわかります。これは、実物の印章の該当部分が欠けているためです。反対に、ここが隅まできちんと写っているのは偽物ということになります。
これから芸術文化の秋を迎えます。各地の博物館・美術館で鑑賞の際に、印影やサインに注目してみれば、一味違った楽しみ方ができるでしょう。
山口県立山口博物館 学芸専門監 山田 稔