新たに切り開かれてゆく新開地では、丘を溝のように削り取って作られた切通しがそこここに見られたのかもしれない。
少しずつ踏み固められて、しだいに「道路」になってゆく土の坂は、雨が降れば溝ができ、砂利や石が顔を出し、草も生え始めて、自然に戻ろうとする。そんな人間と自然の葛藤の姿に劉生は心惹かれていたという。東京の代々木、今から100年以上も前の風景だ。
それでも、この絵のような電信柱の影が真っすぐ伸びない凸凹した坂道は、私が自転車に乗り始めた頃にもまだあった。ハンドルがとられそうになるので、緊張しながらゆっくりペダルを踏んだ。画面右上に描かれた段のような場所も、遊び場の範囲内にあった。急な土の斜面に寄りかかりながら目をつぶって太陽に顔を向けると、まぶたの裏が赤く見えた。遊んでいた冬の空は、記憶のなかでは、いつも青い。この絵を見て、あの頃の空の色をまた思い出した。
山口県立美術館学芸参与 斎藤 郁夫