冒険小説を読んでいたら旅行に行きたくなった。それも秘境。小説は、無人島での波乱万丈の日々が綴られているのだけれど、私は無人島には行けない。行けば、島を探検するどころか数日で死ぬ。生き抜く知恵を持っていない。衣食住、なにもかも人に頼っている。火ひとつ熾すこともできない。海が周囲にあっても魚一匹釣る技術も持たない。孤独には数日耐えられるかもしれない。あきらめることはすぐできる。砂浜に座して星空を眺めながら喉の渇きに苦しみ死ぬであろう。
ということでツアーに入り、誰かに安全に連れて行ってもらう旅を探した。行く予定などないのだが、心だけは行く気になっている。“きんと雲に乗って、旅に出かけませんか”というS旅行社の案内書を求めた。西遊記の孫悟空の乗った、あのきんと雲。行きたい所が沢山あった。
“ユキヒョウを探す”“砂漠と大西洋が出会う国ナミビア”。ナミビアの浜に打ち上げられた難破船の写真を見て、その静謐な風景に長く憧れ続けてきた。“歩かずに行く秘境ムスタン王国”“未知なる中央アフリカ”。コンゴには、ボノボがいる。“トルクメニスタン完全周遊”。この国にある地獄の門、噴出するガスに火を放ったために四十年以上燃え続ける「火のクレーター」。
私は、きんと雲に片足をかけた。