春の細かい雨が降る日、福岡S病院に友人を見舞った。手術の前に会いに行った。友人はいつもの笑顔で、励ましに行った私を逆に元気づけてくれた。友人はケラケラと笑うのに、部屋には不安な空気が重く漂っていた。
病院を出て一人になりたかった。喫茶店でもないかと交差点を渡った。
“医療を届ける 思いを届ける”という幟の下に『国境なき医師団』の方が募金のためにそこに立っていた。目があった。若いキリリとした表情の女性がサッと手を差し伸べた。私はそれを握った。降り続いている霧のような雨が彼女の髪や頬を濡らしている。
置かれていたパンフレットには、疲れた母親に抱かれた痩せた赤ちゃんがいた。私を見ている。予防接種を受けるために行列をするアフリカの子供達の写真を見ながら、一助になりたいと思った。誰かが紛争を起こし誰かが助ける。誰かが壊し誰かがまた積み上げる。沢山の人達が死に、そして飢える。片や多数の食物が廃棄される。私にはわからない世界の問題があるのだろうが苦しむのは無力な庶民と子供。
『国境なき医師団』の活動をされる人達の、意志の強い光を放つ目と向かい合うと、心が上向きになっていくのがわかる。雨も上がり空が明るくなってきた。大丈夫だ。人は助け合いながら生き続けて行ける。