「令和」という文字をまだ一度も書いた事がない。アンケートや提出書類もたいてい生年月日しか必要がないものばかり。昭和二十二年、と記入する。
コンビニに時たま行く。買い物をしてレジで支払いをする時、若い女性店員さんが優しい声で「○○カードをお持ちですか?」と私に問う。○○が聞き取れないが、多分この店のポイントが貯まるカードなのだと想像し「持っていません」と言う。「失礼しました」と丁寧な返事が返ってくる。
その丸い可愛い目に―年配の女性だな、コンビに来るのはめったにない層の人だ―という情報が現われる。
私も目で答える。―そうよ、年配なのよ。でも、年のわりには貫禄がないでしょ。オドオドしているでしょ。もっとしっかりとしていなければ、あなたは老人になるのが怖くなるわよね。立派な姿を私が見せておけば、あなたは年取ることが楽しみになるはず。こんな年寄りになりたい、年を取るのも悪くないなあ、なんて思うはず。他の人を見習ってね。私はまだ発展途上なのよ。年寄り修行中。前を行く、八十、九十、百歳のご老人達を見て勉強している未熟人なの。じゃまたね―。
店員さんは私を見送る。「お足元お気をつけて。ありがとうございました」「気をつけるわ」。入り口のマットに躓かないように去る。