我が家に小さい車庫がある。その上に板敷きの部屋が一間ある。そこには、古い布団や本や人形などを置いている。一週間に一度くらい風を入れるためだけにしか部屋には行かない。
人形が部屋の真ん中にあるテーブルの上に乗っていた。人形はテーブルから五メートルは離れた、ガラスケースの中に置いてあったのだ。ケースは簡単に開くが、この時、扉は閉まっていた。人形はただ一度訪れたドイツで買ってきた魔女の人形。高い鼻が先のほうで曲がっていて、それが私に似ていたので記念に買ったのだ。
腰近くまである白髪を乱し、瞳を油断なく見開き、こけた頬には頬紅を濃く塗り、チェックのロングスカートを穿き、黒い膝まであるブーツで、竹箒に跨っている。
飛んだのか? 魔女だもの物語の中で飛んだとて不思議はないが、ここは小さな部屋の中。魔女が箒に乗ってテーブルに駆けつけなければならないことなど起こらない。何があった? ゴキブリか蟻か、ダンゴ虫の大群でもいたのか? 魔女だってケースの中だけでは退屈だ。魔女は飛んだのだ。テーブルまで飛んで魔力を試した。長いブランクなんてなんのその、高齢でもへっちゃら飛べたのだ。今度はドイツに行って仲間に会ってくるといいわ。でも、この部屋に帰ってきてね。