崇拝する先輩のMさんとおとぎ話のこと等を話していた。桃太郎の話になった時、Mさんが「芥川龍之介の桃太郎を読んでごらんなさい」と言った。
芥川なんて難しそう。神経質そうなギロリとした目の彼の写真が思い出された。教科書で、“芋粥”を読んだけれど、ああ、そうか、としか思わなかった。そうだ、“トロッコ”は感動した。良平と一緒に泣いたっけ。
図書館に“芥川龍之介の桃太郎”を申し込んだ。届いたのは、横19センチ、縦26.5センチ、厚さ3センチ、重さに至っては1.6キログラム! 「ザ・龍之介」がどんと渡されて、おお、と腰が引けた。大活字版の本だ。
目が薄くなり、小さい活字の本を読むのは辛くなったが、大活字の本を読もうとは思わなかった。読みなれた大きさの活字でなければ雰囲気が壊れると信じていた。大活字は間が抜けた感じがすると思っていた。
これはいい。大活字は読み易い。本にはカナが振ってある。楽ちんだ。
桃太郎は、お爺さんお婆さんのように、山だの川だの畑だのへ仕事に出るのが嫌だったので、鬼が島の征伐を思い立った。鬼が島は天然の楽土で、鬼は平和を愛していた。桃太郎はこういう罪のない鬼に建国以来の恐ろしさを与えた。しばし沈黙…挿絵の鬼が賢者の風貌をしている。