椿の艶やかな葉の上に10センチほどの太った毛虫がいる。
私はこれまで何回も毛虫にやられた。去年は、洗濯物を干していたら、むき出しの裸の腕に毛虫が落ちてきた。しばらくすると一面に赤い発疹ができた。腕や腹や太股の柔らかい部分に全部できた。痒くてがまんなんぞできない。すぐに皮膚科に行き薬を貰った。思い出しただけで鳥肌が立つ。
急いで毛虫に殺虫剤を噴射する。毛虫めがけて噴射し続ける。
しばらく盛りの白いアジサイに顔を埋めて息を殺した。花びらには雨の雫が残っていて私の顔を濡らした。
私が毛虫を殺しました。自分の身の安全のためだけに。
恐る恐る毛虫を見ると、ツンツンと突き立っていた毛が燃えた後のように真っ黒になっていた。苦しかったのか、少し頭をもたげて首が捩れている。
待てよ、あんな大きな毛虫がいたのだから、近くに卵を産み子孫を残しているに違いない。虫は強い。
椿の中に粗い目のガーゼを広げたようなハンモックがかかり、黒い卵が一杯ついている。横の葉には1センチくらいの青灰色の毛虫の赤ちゃんがずらりと七匹寝ている。殺虫剤をシューと吹き付ける。吹く、吹く。赤ちゃんが身をよじる…ごめんなさい。