東京富士美術館所蔵の珠玉の作品83点を5章に分けて紹介している。会場を入るとすぐ、この絵とともに「歴史と神話」の章が始まる。紀元前4世紀のアレクサンドロス大王の事蹟を、17世紀のイタリアの画家が描いたものだ。
2000年も前の出来事を生き生きと蘇らせて表現するために、画家はふたつの方法を用いている。ひとつは克明な写実的描写。甲冑や王冠の金属質、衣服の柔らかさ、顔面や首筋の皺などの質感をリアルに描き分けている。
もうひとつは、画面に登場する人物の視線である。右下の少年と左端に男性は、鑑賞者である私たちを見つめ
ている。前者は微笑みかけ、後者は右手でサインを送っている。この二人は明らかに私たちを意識している。
こうした視線を描き込むことで、それと目を合わせる鑑賞者自身を、画中の人物と同じように歴史的現場に立ち会っている当事者のような気分にさせるのである。
山口県立美術館学芸参与 斎藤 郁夫