この度、七十二歳にして初めて自分名義の家を持った。両親が亡くなったので自然に私の所有になったのだ。女三界にやっと家有り、となった。
三界とは、仏教語で欲界・色界・無色界、衆生が活動する全世界のこと。「女三界に家無し」。女はどこにも安住すべき家がない、ということ。どういうこと?
女は幼少のときは親に、嫁に行ってからは夫に、老いては子供に従うものだから、広い世界のどこにも身を落ち着ける場所はない、ということだ。
今どきこのような考えを持っている女性はいないと思う。従わなくても生きて行ける世である。しかし、世間にはこのような空気がまだまだ漂っている。ご油断なされるな。
私は人生の終わり近くに、やっと手足を伸ばし安心して暮らせる場所を持ったということになる。バンザーイ!、とはいかない。複雑な心境である。家を持つということは、自立するということ。固定資産税など税金を納めねばならない。ここに経済の問題が現れる。女性と経済、特に昭和の「三界に家なし」の時代の女性達。高度成長時代に身を投げ出して、夫を家を支えた女性達。団塊の世代しかり。皆、多分貧しい。
処々問題はあるが、なにはともあれ鍵をかければ誰も入ってこられない空間を私は持ったのである。