『人間がいかにみっともない、取るに足らない存在であるか、ということがよくわかってきます。ためしに、読者も鏡の前で裸になってみてください』(「白秋期・五木寛之著)。
人生を青春、朱夏、白秋、玄冬と分けた人生四季説の中の白秋期。著者はそれを五十歳から七十五歳あたりまでの二十五年間としている。この本は、その季節を私たちはどう生きるのか、という道案内の書である。私はギリギリ白秋期にある。
自分が取るに足らない存在である、というのはわかっている。私の周囲には知恵のある賢い人達が沢山いる。彼女達を羨望の目で見ている。
まあ、確認のために脱いで見るか。五木氏の指示通り、着ているものを順々に脱ぐ。いや、まあ、…こんなものか。縮緬皺やシミがあろうとも、足が湾曲していようとも、さして日常生活に不自由はない。しかし、みっともないということは確認できた。謙虚に生きていこう、これからもよろしく、と裸に挨拶した。裸がこちらこそ、と残っている美しい部分を見せて礼を返した。
新聞を広げたら、河野裕子氏の歌が目に飛び込んできた。
美しく齢を取りたいと言ふ人をアホかと思ひ寝るまへも思ふ
白秋期の後はいよいよ玄冬期である。いざ、いざ。