(4月11日付・松前了嗣さん寄稿の続き)
ひとり旅
「月と日の雲きりはらひゆく秋の風に靡かぬ草も木もなし」
9月20日を過ぎた頃、当時、山口に滞在していた女流歌人・野村望東尼は、出発を目前に控えた長州軍の山田顕義や楫取素彦、国貞直人らに歌を贈った。
そして、25日には、松崎天満宮(防府天満宮)に、薩長連合軍の戦勝祈願をするため、山口から三田尻へと向かった。この時彼女は、突然のことであったため、同行者を見つけることができず、ひとりで萩往還を歩いた。また、道中では多くの歌を詠んだ。
「松のみと見えし氷上の山くまにあらわれいでて照る紅葉かな」
これは、大内氷上の福田侠平宅を訪ねた際に詠んだものである。侠平は、奇兵隊の幹部で、高杉晋作の盟友であった。
常緑の松のみが茂っているように見える氷上の山。そこに赤く照り映える紅葉を見つけた望東尼。真っ赤な紅葉とは、討幕に向けて闘志を燃やす侠平の姿だったのか。
「故郷をひとりいできてゆくたびにうらやましくも親子つれやま」
大内氷上から進むと、遠くに、まるで親子連れのような山々が連なっていた。
(続く。次回は4月25日付に掲載します)