劉生が描いた湯呑みや花瓶やビンは、まるで生き物のように、少し背伸びをした姿勢で描かれている。そんなふうに見える。劉生の静物画の不思議な魅力だと思う。リンゴはどれも細面で、小さくて堅そうだ。
この作品の白い花瓶は、赤いリンゴが乗った白い台皿の方に、少しだけ頭を傾けている。ふと思いついて、目の前に立てた指で黄色いリンゴを隠しながら、片目で絵を眺めてみると、白い肌の陶器/磁器がぴたりと並んで、みごとに整った構図になった。
びっくりすると同時に、ああ、このふたつの白い焼き物は劉生と妻の蓁なんだ、と合点がいった。その間にはめ込まれたように描かれている黄色いリンゴは、きっと麗子なのだろう。 茶色いテーブルの端に置かれた「登場人物」たちは、ふたりでも3人になっても調和を保って、静かに佇んでいる。互いに何かを伝えあっているような気がして、「登場人物」たちの周辺部もとても気になる。
山口県立美術館学芸参与 斎藤 郁夫