冬の夜に
私の心が悲しんでゐる
悲しんでゐる、わけもなく……
心は錆びて、紫色をしてゐる。
丈夫な扉の向ふに、
古い日は放心してゐる。
丘の上では
棉の実が罅裂ける。
此処では薪が燻つてゐる、
その煙は、自分自らを
知つてでもゐるやうにのぼる。
誘はれるでもなく
覓めるでもなく、
私の心が燻る……
【ひとことコラム】寒い夜、部屋に閉じこもってじっと動かずにいると、気持ちは自然に心の内側へ向かっていきます。過去も現在も遠くへ行ってしまって、自分自身とだけ向き合う時間。寂しいようですが、ほんのわずかな心の動きでも鮮やかに感じることのできる、豊かな時間でもあります。
中原中也記念館館長 中原 豊