スーパーマーケットの魚屋さんに身体がキラキラ光った新鮮な小鯵が並んでいた。笊に盛られていて、ざっと見、十五匹はいた。二百五十円。安い! これを酢漬けにしたらおいしそうだな、と思ってじっと見ていた。ゼイゴを取り、腹を開くのが面倒だなあ、包丁の切れが悪いし(包丁を研ぐのも大儀だ)どうしようかな…でも、食べたい。バリバリっと骨まで噛みたい。
店のおじさんが「しごうをしてあげようか」と優しい声で言った。しごうする、とは小鯵のゼイゴを取り、腹を開け、調理できる状態にすること。
「いいんですか」と私が驚いて言った。だって、こんなに安いし、小鯵は山盛りある。時間がかかる。「いいよ」。おじさんは、白い帽子に白い調理服。下がり眉に下がり目。頬がふっくらと少し下がっている。眉に白いものが見える。差し出された手は、水を吸って膨らんでいる。
小鯵は水に跳ねて処理されていく。おじさんの手が器用に動いて包丁が鋭く光る。おじさんの眉が上がる。おじさん、ごめんなさい。横着者の私。おじさんに面倒かけて。幾らの利益もないだろうに。私のために、ありがとう、おじさん。
さっと小鯵が差し出される。下がり眉で下がり目で笑っている。ありがとう、おじさん。きっと上手に料理するわ。美味しくいただきます。