今回の大賞は、33枚の紙に描かれたドローイングの作品である。
絵に中心がないので、どこから見てもいいのだろう。なんとなく一番左の下から見はじめると、家の中の様子が描かれていて、座布団と丸いちゃぶ台がある。その周辺には箪笥や襖も見える。さらに右を見てゆくと、石垣と切り株、プール、衣桁の着物やたくさんの樹木が目に入ってくる。ところどころ異なる日付が入っているので、一度に描き上げたものではないようだ。
さらに右へ進むと、犬がいて、宮沢賢治の「星めぐりの歌」の詩句があって、高い塀の横を馬が歩んでいる。お寺の鐘楼のような建物、風に揺れる樹木、そして画面がふっと切れる。
これは作家の見ている夢なのだろうか? きわめて私的なイメージの連続なのだが、自分もどこかで見たようなものがあちこちに混ざっている。そのせいか不思議に懐かしく、子どもの頃の遊び場を訪ね歩いているような気分になった。
山口県立美術館学芸参与 斎藤 郁夫