一升谷を歩き通して標高346メートルの五文蔵峠を越えると、釖切の集落に出る。釖切とは「その昔、深山のため釖にて道筋を切り開いた」ことに由来するという。峠を越えた所にも、特に保存状態の良い石畳が残っているので必見である。
この集落から峠を振り返るシーンは萩往還の中でも最も好きな場所の一つ。それも田植え時が一番である。これは萩往還沿いの集落のどこにも当てはまることだが、畦道や家屋周囲の草刈りが気持ちの良い程徹底しており、その中でもここは群を抜いている。しかもそれを担っておられるのが近くの老夫婦と知って益々嬉しくなった。出会えば必ず挨拶してくださる素敵なご夫婦である。
文・イラスト=古谷眞之助