「白雲と見つつのぼれば岩戸山桜の花のかげに来にけり」
1864(元治元)年、桜の頃、京都の公家・三条実美は、兄弟山の北にある岩戸山に登ると、そこで歌を詠んだ。1863(文久3)年8月18日。京都御所で起きた政変により失脚し、長州藩へと身を投じた彼は、1年余りを山口で過ごした。当時から遡ること約300年。実美の祖先である公頼は、山口の大内義隆のもとに身を寄せていた。だが、義隆の重臣である陶晴賢の反乱に巻き込まれ、命を奪われた。遠く離れた異郷の地に咲く桜花。この時、実美はどのような思いをめぐらせていたのだろうか。やがて散りゆくあの花を眺めながら。
防長史談会山口支部長 松前 了嗣