朝、門扉を開けると一頭 のライオンがいるのです。朝日を浴びて鬣を黄金色に染めて。「おはよう」と言うと、光の中、振り返り振り返り、裏山に帰って行く。夕方、門扉を閉める時、又、ライオンがいるのです。赤い夕日にしなやかな肢体をさらして。しばらく私を見つめ、裏山の椿の間に帰ります。
中国山脈の入口に私の故郷があり、そこに古い我が家が一軒あります。もう誰も住んでいません。軒も傾いでもう住めません。この村自体、数件の家に老人が住んでいるだけの限界集落なのです。集落の一人の方に我が家の管理をしてもらっています。管理といっても、この空家に不都合なことがあれば連絡してもらうだけです。
年に数回、故郷の家に行きます。その時いつもライオンが来ます。ライオンが帰っていく裏山には、我が家の先祖代々の墓があります。土葬です。墓石のある人もいるし、小さな石が置いてあるだけの人もいます。盛り土だけの人もいます。名前のある人もいるし、名前のない人もいます。ない人のほうが多い。ライオンはその墓地から来るのです。順番に墓地の人を乗せて、私に会いに来ます。乗っている人の姿は私には見えませんが、声は聞こえます。「可愛い、可愛い」と言いながら、門の外から見ています。私はまだ門の内でライオンは外です。外と内。