なんにも訪ふことのない、
私の心は閑寂だ。
それは日曜日の渡り廊下、
――みんなは野原へ行つちやつた。
板は冷たい光沢をもち、
小鳥は庭に啼いてゐる。
締めの足りない水道の、
蛇口の滴は、つと光り!
土は薔薇色、空には雲雀
空はきれいな四月です。
なんにも訪ふことのない、
私の心は閑寂だ。
【ひとことコラム】ぽっかりと空いた時間。屋外にはのどかな春の風景が広がっていますが、詩人はむしろ無為を楽しんでいるようです。俳人の山頭火は中也と直接会うことがなかったのですが、この詩の〈蛇口の滴は、つと光り!〉の一行について「これは俳句だ」と言ったと伝えられています。
中原中也記念館館長 中原 豊