かゞやかしい朝よ、
紫の、物々の影よ、
つめたい、朝の空気よ、
灰色の、甍よ、
水色の、空よ、
風よ!
なにか思ひ出せない……
大切な、こころのものよ、
底の方でか、遥か上方でか、
今も鳴る、失くした笛よ、
その笛、短くはなる、
短く!
風よ!
水色の、空よ、
灰色の、甍よ、
つめたい、朝の空気よ、
かゞやかしい朝
紫の、物々の影よ……
【ひとことコラム】何もかもが新鮮に感じられる朝の時間。身近な一つ一つの事象を見つめながら、詩人の意識は心の内側に向かいます。自分はいつのまにか大切なものを失ってしまっていて、それが今もどこかから呼びかけてくる。その切迫した響きを感じながら、詩人は世界を見つめ直します。
中原中也記念館館長 中原 豊