「日露戦争画版」という手作りの古い和綴じの冊子が手元にある。日露戦争(一九〇四年~五年)の状況を従軍画家が描いた絵や、写真等が雑誌や本から切り抜かれ四十枚綴られている。
最初に海軍大尉大勲位 有栖川宮威親王殿下の写真がある。最後の頁に『出征兵士盲目の母に袂別す』という白黒の絵がある。正座して俯く息子に、母が床から手を伸ばし袖の線に触れている絵である。横にこう書かれている。
“得利寺附近の名誉戦死者津石上等兵の名を記せりや、氏は大阪の人、出征の其夜盲の母の病床に侍し、今を今生の別と、せめてもの心やりに、見えぬ母の手に軍服の袖を探らせ、「此線が金線になって帰るのを待って下さい」としつかり母の手を握り締め、暫くは互いに聲を忍びつゝ、やがて気を取り直せる上等兵は、一碗の清水を母に含ませ、自ら其余滴を干して”この先数行あるが文字が判別できない。下に英訳がある。最初の数行かすれて読めないが『GOOD-BYE TO HIS BLINDMOTHER』とだけは読める。私にも「GOOD-BYE」だけはわかる。
グッドバイなんて! 軽々しい。出征する息子と盲目の母。今生の別れを二人は意識している。GOOD-BYEなんて…。