自粛生活も長引くと気が滅入る。マスクして和恵さんの家を訪ねた。彼女も私も七十三歳。彼女は夫を見送り今は独り暮らし。「元気?」。出て来た和恵さんの目が濡れている。「どこか具合悪いの?」。彼女は涙声で「賽の河原地蔵和讃を詠っていたの」と言った。「あれは泣くね」と私の目も潤む。自粛生活が長くなると涙もろくなる。独り家に閉じこもると心細くなる。
賽の河原地蔵和讃
これはこの世のことならず/死出の山路の裾野なる/賽の河原の物語/聞くにつけても哀れなり/二つや三つ四つ五つ/十にも足らぬ幼子が/父恋し母恋し/恋し恋しと泣く声は/この世の声とは事変わり/哀しさ骨身を通すなり/かのみどりごの所作として/河原の石をとり集め/これにて回向の塔を組む/一重組んでは父のため/一重組んでは母のため(略)
「地蔵様が御衣の中に抱いて下さるんだから救われてるよ。来る時、男子高校生が自転車に乗って学校に行ってたよ」。和恵さんが「少年っていいよね。真っ直ぐで。また、泣けそう」「女子も行っていたよ」。和恵さんがニタリと笑った。「少女は泣けない。少女は意外と強い」「私達そうだったもの。大きなお尻で自転車こいで」。泣いて笑って、水羊羹三つ食べてお茶飲んで…新型コロナウイルスワクチンまだかしら?