夏になると雑草がはびこる。エイヤと雑草を抜く。「どうして私を抜くの」と名も知らぬ草が言う。「横の松葉ボタンが雑草に覆われて映えないでしょ」「よく見て、小さいけれど私、紫の花も咲かせているでしょ。松葉ボタンのほうが美しいというの? あなたの美の基準は何よ。世間の評価に惑わされているわ」。「じゃ、花が終わってから抜くわ。次世代に命を繋いだ時点で抜かせてもらうわ」とうろたえながら言った。「そんなお慈悲はいらないわ。私達は長いひげ根で繋がっているの。あなたごときの力で絶えるなんてことないわ。私達はこの環境から逃げ出せないからしっかり工夫して生きて行く知恵があるの。あなたの助けは借りない。プライドがあるのよ」
ヨモギに手をかける。「私は、ヨモギよ。料理下手のあなたには無理かもしれないけれど、今日は私でヨモギ餅でも作ってみてはいかが。抜いて棄てては勿体無いわ」「ヨモギ餅は好きだけれど作れないの。それにここ通り道だものじゃまになるのよ」「じゃまだなんて! 私を風呂に入れて今日は薬湯としなさい。イラムシにやられたその腕が癒えるわよ。私は薬草よ。もっと勉強してよ。それに雑草と言わないで。野草と言いなさい。あなたのこの小さな庭には、個性的でユニークな野草がいっぱいよ。目を開いて」