フランスの小さな村に「夢の宮殿」とよばれる大変不思議な建物があります。石をセメントで固めて作り上げられたこの宮殿は、約百年前、ある郵便配達夫が、たったひとりで作り上げたものなのです。
その人の名はシュヴァル。空想好きな彼は、配達のため毎日30キロ以上の道のりを歩く間、頭の中で夢の宮殿の形を思い描いていました。そのもとになったのは、雑誌に載っていた中南米など遠い国々の建物でした。
夢の宮殿を実際に作ろうと思ったのは、43歳のとき。きっかけは、眼玉のような形をした変わった石を見つけたことでした。
「自然が彫刻をつくってくれるのなら、わたしはそれを使って建築をしよう!」その日から彼は山のように石を集め、わずかな収入でセメントや石灰を買い、33年かけて宮殿を完成させました。
この本には宮殿を様々な角度から撮った写真が載っています。長さ26メートル、幅14メートル、高さ10メートル。気の遠くなるような数の石を組み合わせて作られたその姿には、ただただ驚きのひとことです。
(ぶどうの木代表 中村 佳恵)
福音館書店
文:岡谷 公二
絵:山根 秀信