冷蔵庫を開けると、人の腹の中を覗き見た気になる。実際のそれではなく理科室にあった人体模型の腹だ。それを思い出す。模型の腹の中には、きちんと神業で臓物が仕舞われていた。名前は忘れてしまったけれど、その形は、楕円や美しい曲線を描いた管類。涙の形や相似形に並んだもの等。色は本物のそれに似せて塗ってあったのだろう。臓器は薄く、濃く色がつけてあった。本物を知らないのだけれど、そうだろうと思うほど生き生きしていた。
私の冷蔵庫は、単身者用の小さな物だから扉を開けると中はひと目で見渡せる。
牛レバーを取り出す(右の腎臓を思う)。玉ねぎを輪切りにしてレバーと炒める。塩、コショウをする。空腸(十二指腸に続く小腸の前半部)を思わせる食品も入っている。
ウインナー、手羽先、豚バラ肉、マグロの頭部、蛸の吸盤のある足…皆さん、気持ち悪いと思われるだろうから、それに対比する内臓の名前は書かないけれど、冷蔵庫は人体である。
冷蔵庫と内臓。どちらにもある蔵。違いは月(にくづき)があるかないか。似ているので私はよく間違える。蔵とは、家財・商品などを安全にしまっておくための建物。大切な食料も、内臓もしまわれる。冷蔵庫を開けると腹の中が現われる。