古本屋で本を買うと、その本に線が引いてあることがある。ああ、この本の前の持ち主は、ここで感動したんだな、と思うと親しみが湧いてくる。同じ箇所で私も心ときめくと、前の所有者と気持ちを共有した気になりうれしくなる。―あなたもここ良いと思ったんだね。私もよ―となる。
線にもいろいろあって、鉛筆が一番多い。次が赤鉛筆。定規で丁寧に引いた線が多いが、時にはふらふらした曲がった線もある。定規の線の人は、机の前にきちんと座って読んでいるのだろう。捩れた筆圧の低い線は寝転がって読んでいる人だ。私の線は曲がっている。寝転がって読み、上向いたまま線を引く。よろよろと曲がる。
難しい漢字に鉛筆でカナがふってあった。私も読めなかったので、助かった。ありがとうね。推理小説では、最初に犯人の名が書きこまれた悪戯があるらしいが、私はまだそういう本には出会ったことはない。これはいけません。
私がなんにも感じない箇所に定規を使った真っ直ぐな赤い線が引かれていた時は、ちょっと動機が打つ。なんで、ここなの? どうして? 二、三頁前から真剣に読み直す。
亡くなった友人から貰った本に線が引かれていたら、そこを掌でゆっくりと撫でる。あの人が触れたのだと思うと線から目が離れない。