10月31日から「香月泰男“私の”シベリアⅡ」が始まる。
シベリア・シリーズの点数は57点であるが、1967年3月刊行の画集『シベリア』で初めてまとまったかたちで紹介されたときは32点だった。
この画集のナンバー32が「復員〈タラップ〉」だった。制作年は「未完=1966」と記されている。画集にぜひとも載せるため、制作を急いだ様子がうかがえる。1966年の夏までにとりあえず制作が一段落し、9月になると香月夫妻はアメリカ・ヨーロッパの旅へ出発した。
画集の一番最後にこの絵を入れることで、シベリア体験の作画には区切がつくはずだった。やっと“復員”が描けたのだから。そして妻と欧米に出かけて、新たに見分を広めて帰ってくるのだから。
しかし香月の心身に食い込んだシベリアはそれほど簡単に馴らされるものではなかった。画家は帰国後「復員〈タラップ〉」に手を入れ、最期まで、シベリアを描き続けることになった。
山口県立美術館学芸参与 斎藤 郁夫