会場の一角に六曲一双の屏風が露出展示されている。展示台の前の床に敷かれた畳に膝をついて、じっくり眺めてみる。左隻の方が風景としてまとまっていて、出来がいいように思うのだが、どうだろうか。
画面の右端の小さな円は、太陽とも月とも言われているらしいが、私には月に見える。
膝をついて低い位置から見上げるように眺めていると、臨場感が高まってくるようだ。夕方早い時間に東を向いて、うす青い山の上に昇ったばかりの大きな満月を眺めているような気分である。
月から右、つまり南東方向を見れば、右隻につながる広々とした湖(?)があって、のどかで落ち着いた気持ちになる。月の左、つまり北を見てゆけば、一番奥に雪を被った白い尖峰がそびえていて、寒々しく寂しく感じる。
画面の奥から手前、左右へと視線を動かすたびに東西南北の方向感覚も呼び覚まされて、すっかりこの眺望のリアルさに心奪われてしまった。
山口県立美術館学芸参与 斎藤 郁夫