一個の掌大のミッキー・マウスが私のベッドの上にいる。彼はサンタクロースの赤い衣装を着て胸に金色の星を抱え、とても華やかなのだ。なのに顔がどうみてもお爺さんだ…。
何故か眉毛がない。口を一文字に結んで笑っていない、可愛さや幼児性をあらわす膨らんだ頬がない。黒目が下を向いている…お爺さん顔だ。
お爺さん顔のミッキーを、私は九州山脈の小さなA町のホテルで拾った。初めての町なのでネットで検索してホテルを探した。4階建てだったが寂れて暗く泊まり客は多分私一人。フロントの人以外誰にも会わない。ギシギシ嫌な音をたてるエレベーターで三階の部屋に行き、扉を開けて呆然とした。かび臭い。暖房も効いていない。机の上も汚れている。今さら仕方がない。ベッドに座って時計をはずしたら、するりとベッドと壁の隙間に落ちてしまった。取ろうとベッドの下を覗きびっくり。埃まみれなのだ。紙や櫛、黒い物まで見える。
A町は、過疎化が進んでいると聞いた。ホテルの利用客も少ないのだ。孫の手があったのでそれで時計を引き寄せ取った。一緒に埃まみれのお爺さんミッキーがついてきた。
今、彼は私の横でお爺さん顔で寝ている。何もかも心得た顔に安らぐ。人生の荒波を過ごしてきたような顔に優しく見守られ安眠できる。