この詩集は、童話屋の田中和雄さんが、詩人まど・みちおの作品の中から五十二編を選んで編んだものです。
冬眠から目覚めたばかりでまだ頭のぼんやりしているくまが、川にうつった自分の顔を見て「そうだ ぼくは くまだった/よかったな」とつぶやく「くまさん」や、枝を離れ地面にたどり着くまでのひとひらの花びらの姿にかけがえのない出来事の終わりとはじまりを感じる「さくらの はなびら」などを読むと、どんなものも自分ならではの形と役割を持っているのだ、ということに気付かされます。
また「たんたん たんぽぽ/みいつけた/ちょうちょが とまって/いたからよ」と、春のささやかな光景をうたった「たんたん たんぽぽ」からは、誰もが、他者にかかわってもらうことで、よりくっきりとこの世界に像を結ぶことができるのだ、という幸せを感じます。「編者あとがき」で田中さんは、まどさんの次の言葉を紹介しています。「みんながみんな、夫々に尊いのだ。みんながみんな、心ゆくまゝに存在していゝ筈なのだ。」
(ぶどうの木代表 中村 佳恵)
童話屋
作:まど・みちお
装丁・画:島田 光雄