中国武漢市での新型コロナウイルスへの感染報告が初めてされたのは、2019年12月31日のこと。2020年を迎えた1年前には、世界中がこのような災厄に見舞われるとは、まだ想像だにしていなかった。コロナ禍の中で、肉体的、精神的、経済的にさまざまな苦難に直面している人も多いが、まだまだ予断を許さない状況が続いている。山口市の2021年は、どのような年になるのだろうか。渡辺純忠市長に聞いた。
(聞き手/サンデー山口社長 開作真人)
2020年はスピード感をもって対応
―あけましておめでとうございます。2020年は新型コロナウイルスへの対応で大変な年だったとご拝察します。最初に、この1年間を振り返っていただけますか。
渡辺 昨年1月15日に国内1例目の感染者が確認されて以降感染拡大は続き、国は2月下旬に、2週間の期限を設けてスポーツ・文化イベント等の中止、延期、規模縮小等を要請。さらに、全国小・中・高校の休校要請もあり、本市の市立小中学校も3月2日から春休みまで臨時休校しました。また、県内では3月3日に、本市では同25日に1例目となる患者が発生。4月7日には東京都など7都府県に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」が発出され、同16日には対象地域が山口県を含む全国へと拡大されました。本市においては、4月中旬にも相次いで感染者が確認されたことから、市所有施設を休館。さらに同14日からは、市立小中学校を2度目の臨時休校に。市民の皆様、特に子どもたちの命と健康を守るために、そう判断しました。5月25日の全国の緊急事態宣言解除後は、8月や10月に新規感染者が再度全国的に増加傾向となり、本市においても11月に湯田地域でクラスターが発生するなどしました。
―飲食業や観光関連産業などを中心に、多くの市内企業が売り上げの大幅な減少に見舞われました。
渡辺 雇用と暮らしを守り、地域経済の基盤となる事業活動を守り抜くため、国や県の緊急経済対策と呼応しながら、局面に応じて第1弾から第7弾までの緊急経済対策を実施しました。
―それぞれの対策は、とてもスピーディーに打ち出されたように感じます。
渡辺 仰せの通り、検討・実施に当たっては、スピード感をもって進めることが重要だと考え、「新型コロナウイルス感染症対策本部」内に経済対策の専門チームとして「雇用とくらし・経済対策チーム」を設置。関係部局間の連絡・調整の円滑化を図り、特に緊急を要する支援については速やかに検討し、実行に移してきました。
―あらためて、経済対策の具体的な内容をご説明いただけますか。
渡辺 第1弾(3月5日)、第2弾(同25日)、第3弾(4月22日、同30日)では、公共施設における感染拡大防止対策強化、飲食店への最大30万円の家賃補助、小売業・飲食サービス業等への一律20万円の経営支援、宿泊事業者や福祉施設に対する安全衛生対策支援などに取り組みました。緊急事態宣言解除後の経済活動の段階的な再開期には、各種プレミアム付きチケットの発行を支援。第4弾(5月15日)で小売店・飲食店向け「エール! やまぐち応援チケット」と「湯田温泉プレミアム宿泊券」および「やまぐちプレミアム宿泊券」。第5弾(6月25日)と第6弾(8月25日、同31日)は「エール! やまぐち飲食店応援チケット」です。さらに、10月に申し込みを受け付けた「エール! やまぐちプレミアム共通商品券」は、準備したセット数を大幅に上回る応募がありました。本年2月28日が利用期限でもあり、消費喚起による経済効果が現れてくるものと期待しています。
―感染拡大防止に向けた取り組みについてはいかがでしょうか。
渡辺 市内事業者が「新しい生活様式」を導入するための補助金支援を行いました。また、9月には県や地域の検査機関、医師会との連携のもと、本市の休日・夜間急病診療所敷地内に「地域外来・検査センター」を設置。迅速な検査態勢の確保に努めています。こうした中、新たな感染者が増えつつあったこと、そして季節性インフルエンザとの同時流行への備えが必要になったことから、第7弾(11月30日)として、検査体制の拡充と公共施設における感染拡大防止対策を強化。加えて、12月2日の改正予防接種法成立を受け、国からワクチンの供給が開始された際、速やかに接種開始できる体制の構築に着手しました。
ウィズコロナに三つの取り組み
―では、迎えた2021年についてお伺いします。引き続き、新型コロナウイルス感染症への対応が肝要ですね。
渡辺 感染拡大防止の徹底、「新しい生活様式」の社会全体への定着、市内消費喚起、この三つの取り組みを全力で進め、市民生活の安心実現を図ります。一方、新型コロナウイルス感染拡大は、行政のデジタル化の遅れや大都市圏における人口集中のリスクなど、さまざまな課題を浮き彫りにしました。そして、テレワークや遠隔診療等リモートサービスの活用、地方移住への関心の高まりなど、人々の働き方や生活様式、意識の変化ももたらしています。これらは、地方創生の加速化に向けた契機にもなると考えます。
―大都市圏から地方への移住の機運も高まっています。
渡辺 昨年6月の内閣府調査によると、大阪・名古屋圏で約15%、東京圏で約28%、東京23区に限れば約35%の人が「地方移住への関心が高まった」と回答しました。特に20代、30代といった若者世代における関心の高さが際立っています。過密で余裕のない都市での生活を離れ、ゆとりある地方でテレワーク等新たな働き方を実践しながら「自分らしい生活を送りたい」と思う人が、コロナ禍で増えたのではないでしょうか。本市には、多様な自然環境、重層的な歴史文化、温泉による癒やしなどの地域資源があり、いろいろな働き方を実践できる環境整備にも取り組んでいます。これらの魅力をしっかり情報発信していくとともに、移住を具体的に検討している人たちへの、本市を視察する際の支援策も検討しています。
7月にオープン「KDDI 維新ホール」
―いよいよ4月、JR新山口駅北地区拠点施設が完成します。コロナ禍におけるオープンとなりますが、どのような運用をお考えですか?
渡辺 4月の開館、7月のグランドオープンに向けた準備を鋭意進めています。昨年11月18日には施設の愛称が「KDDI 維新ホール」に決まりました。厚生労働省のコロナ感染予防対策の最新基準もクリアしています。さらに、サーモグラフィーや非接触体温計による入館者の体温チェック、座席配置の工夫等、ソフト面においても万全の対策をとることにしています。また、運営面でも「新しい生活様式」に対応。学会や会議等において、会場からだけでなく、遠隔地からもオンラインで参加可能な新しいコンベンションに対応できないか、検討しています。
―実際の稼働予定はいかがでしょう。
渡辺 県内一の2000人の収容を誇るメインホールは、グランドオープン後の10、11月の週末等の予約は既に埋まっています。また、有名アーティストのコンサート誘致についても、プロモーターとの交渉を順調に進めています。このメインホールを始め、起業・創業や中小企業のハンズオン支援等を行う「産業交流スペース『メグリバ』」など様々な機能で構成される拠点施設を起点に、交流とにぎわい、新たなビジネスの創出に向けた取り組みを積極的に展開。山口県ナンバーワンのビジネス拠点づくりを推進していくことはもとより、拠点施設から山口都市核へ、さらには市域全体へ、その勢いを波及させていきたいと考えています。
―施設周辺の環境整備についてもお聞かせください。
渡辺 「新山口駅ターミナルパーク整備」ではこれまで、「南北自由通路」「橋上駅舎」「北口・南口駅前広場」「県道新山口停車場長谷線」(令和通り)などのハード面を整え、県都・山口の陸の玄関にふさわしい駅空間・駅前広場の形成をめざしてきました。そして現在は、市中心部への移動を考えたMaaS用ウェブアプリ「ぶらやま」の調査・実証事業に、県とともに取り組んでいます。公共交通の複合経路検索、同駅から湯田温泉街までのタクシー「ゆけむり直行便」乗車予約、市街地観光での「超小型モビリティ」の利用予約などに使えます。実験期間は昨年12月から今年2月まで。その結果を踏まえ、サービスの実装化に向けて取り組みたいと考えています。
「山口ゆめ回廊博覧会」で地元の魅力発見を
―今年7月から12月まで、「山口ゆめ回廊博覧会」が開かれます。昨年のプレ事業は実施期間が変更されたりもしましたが、今年の“本番”についてご説明をお願いします。
渡辺 山口ゆめ回廊博覧会は、山口市、宇部市、萩市、防府市、美祢市、山陽小野田市、島根県津和野町の7市町で構成する「山口県央連携都市圏域」を会場に、7市町の魅力ある地域資源を活用したイベントや体験プログラムを多数展開。エリア内の周遊を促進し、交流人口の増加と地域経済活性化につなげていくものです。昨年は、新型コロナウイルスの影響により、プレ事業の開始時期を7月から10月に延期。感染予防策を講じながら、屋外における周遊事業や少人数向けの体験型コンテンツの実証、博覧会本番を見据えたプロモーション事業などを展開しました。中央公園では、新たな食のイベント「みんな大好き! KOMEZUKI祭マイナス1年祭」を開催し、コロナ禍におけるイベントのあり方として、入場者数の制限やキャッシュレス対応などを実証しました。三密を避けた旅行先や感染対策をしっかり行うイベントは支持されると、手応えを感じているところです。引き続きウィズコロナにあっても、安心して博覧会に出かけられる体制整備を進めます。
―具体的なイベントの予定は?
渡辺 まず、3月にJR新山口駅で、開幕100日前のPRイベントを開催し、博覧会のクーポン付き公式ガイドブックも発行。そして開幕時には、同駅北口広場を中心にオープニングイベントを開き、6カ月にわたる博覧会のスタートを盛り上げる予定です。現在、本市を含む各市町では、実証イベントのブラッシュアップや新たなイベントの計画など、体験型プログラムや魅力的なイベントを会期中に多数提供できるよう、準備を進めています。ぜひ、各イベントに足を運んで、圏域、そして本市の多彩な魅力を楽しんでもらえたらと思います。
財源不足の解消にも取り組み
―2021年度当初予算編成方針では、38億円の財源不足が見込まれました。
渡辺 歳入は、昨年10月時点の市税収入の見込みや、9月末に総務省から発表された「令和3年度地方財政収支の仮試算」等を踏まえて算定。新型コロナウイルスの影響による個人所得や、税制改正による法人市民税の減少により、市民税の減収等を見込んでいます。一方歳出は、各部局における事業計画に基づいており、感染症への対応経費や、社会保障関係経費の増額等を見込んでいます。その結果、当初予算編成方針における試算時には、約38億円の財源不足となりました。現在進めている予算編成作業においては、歳出は事業費の精査をし、歳入は国や県の補助金等、可能な限りの財源確保に努め、歳入歳出の均衡を図ってまいります。さらに、国の補正予算第3号への対応として、可能な限り有利な財源を確保する形で、来年度に予定している事業の前倒しも検討。現在進めている基盤整備を見据え、これまで積み立ててきた特定目的基金や財政調整基金の活用も図るなどし、財源不足の解消に取り組みます。
―では最後に、市民に向けて一言。
渡辺 コロナ禍の中、「新たな日常の構築に向けた挑戦」を、全力で進めます。その上で、将来にわたり豊かに安心して暮らすことができるまちづくりを、そして新しい時代の幕開けを、市民の皆様に予感していただける1年にしていきたいと考えています。