近年の異常気象や警戒され続けている南海トラフ巨大地震など、災害の発生要素を多く抱える日本列島。1995年1月17日の「阪神・淡路大震災」発生から今年で26年、2011年3月11日の「東日本大震災」から10年がたつ。いつ、どの地域が被災しても不思議ではなく、山口県も例外ではない。安心してこの一年を過ごすためにも、災害への備えを再確認してみてはどうだろうか。身近な地域における防災・減災について山口大農学部の山本晴彦教授に聞いた。
【日ごろの備え】
防災対策に、「十分」とか「絶対大丈夫」というものはありません。一人一人が平常時からハザードマップや防災マップを確認し、必要な対応や備えを図ることが重要です。
山口市では、2020年6月に、改訂版「山口市防災ガイドブック」が全戸配布され、美祢市には「地震防災」「洪水(厚狭川・大田川・厚東川)」「土砂災害」に分けられたハザードマップがあります。ハザードマップ中の「洪水浸水想定区域」は、降雨で氾濫した場合に浸水する危険性が高い場所を指しています。従来は100年に1度の「計画規模」が示されていましたが、2015年の水防法改正で「1000年に1度」である「想定しうる最大規模の降雨」に条件を厳しくされました。自宅や周辺地域、通勤・通学路などが災害時にどのような状況になるか再度確認しましょう。
さらに日ごろからできる災害への備えとして、食料・飲料の備蓄や消費期限の確認、懐中電灯・乾電池・ウエットティッシュ・携帯ラジオなど防災グッズの準備、災害時の行動や連絡方法の家族間での確認、避難場所や避難経路・方法の確認、地震に備えた家具の安全な配置や転倒防止対策などが挙げられます。これらは「山口市防災ガイドブック」や美祢市のハザードマップにも、詳しい情報が掲載されています。
【リスクを感知し災害をかわすために】
水田などの低平地が開発された宅地では、堤防の決壊や越水による「外水氾濫」に加えて、雨水の処理が追い付かずに水路・小河川・下水からあふれる「内水氾濫」にも気をつける必要があります。2013年7月28日の豪雨による湯田温泉地域の浸水は、典型的な「内水氾濫」でした。過去の豪雨により小河川や水路などがどのような影響を受けているのか、水門の閉鎖やポンプ場の稼働停止はどのタイミングでなされるのかなどは調べておきたいですね。また、同日の豪雨では、阿武川の河道が増水によりショートカットして氾濫流が発生し、リンゴ園などに被害を及ぼしました。水かさが増すと当然起こる現象であり、日ごろから「微地形」に関心を持つことも大切です。
さらに、地質を知っておくこともリスクをかわすことにつながります。例えば、「2009年7月中国・九州北部豪雨」では、花こう岩の分布する防府市の佐波川流域、防府市・山口小鯖地域の国道262号線付近で大規模な土石流が発生。この時、雨量が防府市よりも多かった山口市では、流紋岩が母岩であるため、土石流は発生しませんでした。
【いざ避難】
災害時に高齢者や障害者、乳幼児などの「要配慮者」がいる場合や、「災害警戒区域」とその周辺住民は率先避難を心がけなければならなりません。「浸水想定区域」では、居住地や上流での雨に降り方にも注意をしましょう。時間を置いて下流に水が到達します。
「令和2年台風第10号」が接近した際は、気象庁の呼びかけにより避難所に予想以上の人が集まりました。コロナ禍により収容定員が3分の1となった避難所はすぐに満員となり、他の避難所へ移動しなければなりませんでした。コロナ禍が続く中では、より的確な避難行動求められます。自宅の2階など、より高い場所に移動する避難方法は、場所によっては危険を伴います。2018年7月に起きた岡山県倉敷市真備町の水害では、自宅での「垂直避難」があだとなり、溺死者が50人を超えました。
そして、もう一つ大切なこととして「声掛け避難」があります。「自分は大丈夫」との思い込みが避難を妨げるため、家族や友人、近所の人の声掛けが、避難のタイミングを早める大きな役割を果たします。
山口大大学院創成学科(農学域系)山本晴彦教授
【プロフィル】1957年京都府生まれ。山口大農学部卒業後、九州大で農学博士の学位を取得。農林水産省入省後、九州農業試験場気象特性研究室研究員に。94年より山口大農学部へ。助手、助教授を経て教授に就任。日本自然災害学会や日本農業気象学会をはじめとする学会の要職を務める。2014年度日本自然災害学会賞、20年度文部科学大臣表彰 科学技術賞を受賞し、同年9月には防災功労者内閣総理大臣表彰を首相官邸で受ける。著書に「平成の風水害~地方防災力の向上を目指して」(農林統計出版)「帝国日本の気象観測ネットワーク」シリーズ(同)他多数。