今年の正月は、通販で選んで買ったお節を食べ終えると、荒川洋治著「文学は実学である」を読み始めた。
昨年の十一月八日、荒川洋治氏は、“礒多生家「帰郷庵」十周年記念講演会”のために来山され、クリエイティブ・スペース赤れんがで『嘉村礒多の世界』の魅力を熱っぽく話された。
皆様ご存じのように嘉村礒多(一八九七~一九三三)は、山口市仁保上郷出身の私小説作家。「崖の下」・「業苦」などがある。二〇一〇年にその生家、築一四〇年の古民家が整備され「帰郷庵」となった。これには「嘉村礒多生家の会」の方々の−小説に描かれた豊かな自然を味わってもらいたい−という熱い思いがある。
前述の講演会で「文学は実学である」を求めた。帯にこうある。『エッセイは、虚構ではない。事実を大切にする。自由きままに書くことはできない。でもわずかな余地がある。そこに楽しさと夢がひろがるのだ、と思う』。荒川氏のその「わずかな余地」を私は味わう。そこに抒情と慈愛がある。それは人を幸せにする。文学は人の世を生きるための実学である。一週間経つが読み終わらない。このような本は、一気に読み上げることはできない。少し読んでは寝転がって考える。
本を読み終えたらその余韻が残るうちに「帰郷庵」を訪ねたい。