2月15日、宅急便が届いた。荷物を受け取りサインをすますと、「アマリリスを育ててみませんか」と青年が30センチばかりの箱を差し出した。
アッ、と声を上げた。同じものを橘さんの部屋で見た。老人ホームの窓辺でピンクの花弁の大輪の花を咲かせていたアマリリス。その時、彼女は「これ不思議な花なのよ。宅急便の人から買ったのだけれど、水をやると凄いスピードで咲くの」と言った。
私は、すぐに買った。箱にあの時と同じピンクのアマリリスが描かれている。橘さんは昨年静かに亡くなった。アマリリスの行方は知らない。
高さ10センチ直径14センチの白い鉢。中に成長に必要なものが詰まっているのだ。注意書きを丁寧に読む。間違ってはいけない。絶対咲かせねば。『まず50㏄の水を与えて下さい。次の水やりは芽が出てからです』
橘さんとのあの語らいの日を再現するのだ。大好きだった橘さん。
すぐに最初の水をやり、日当たりの良い場所に置いて毎日見た。7日後、3センチの小指の形の芽が出た。水をやった。これからの成長が目覚ましい! 芽が出て2日後にはもう6センチに伸びている。3月1日、朝11センチ、昼に計ったら12センチで夕方になったら13センチ。1日に2センチもの成長。
早ければ3月末にあの日のアマリリスが咲く。橘さんに会える。