秋の夕暮れ、自転車で転んだ。スーパーの前、十メートルばかりの横断歩道を自転車に乗って渡ろうとしたら、見事に横倒しになった。赤信号で停車中の車から「大丈夫ですか」と声がかかった。私は、幾度も頭を下げながら、ヤッと声を上げて自転車を引き起こし、小走りに逃げた。買い物した卵やりんごは後ろの籠に入れカバーをかけていたので、ばら撒く失態からは逃れられたが、恥ずかしかった。
渡りきりもう一度自転車に乗ろうとしたが、タイミングが合わず乗れない。怖い。
運転免許を持たない私は、小学校五年生からずっと七十四歳まで乗ってきたベテランだ。乗れるはずだ。何度もツーツーと右足で助走をし、乗ろうとすると足が縮こまって上がらない。なんということだ! 後ろの荷物が重くてバランスが悪くハンドルがふらつくのかもしれない。荷物をほどき、前籠に南瓜と大根を入れた。卵を持ち上げると数個割れていて、卵黄がケースの中にべったりと広がっていた。
青黒く暮れてゆく空を見上げ深呼吸し、もう一度挑戦した。だめだ。自転車もろとも倒れる恐怖で足が上がらない。自転車で転倒し、大たい骨を骨折した坂田さんの顔が浮かぶ。