十朋亭は、竪小路で醸造業を営んだ豪商・萬代家の離れとして享和年間に建てられたものである。文久三年、萩藩は、幕府との雲行きが怪しくなり、外国船からの砲撃の危険性が高まってきた為、地理的中心である山口に政治の中枢を移す方が有利と考えてこれを実行した。いわゆる「山口移鎮」である。しかし、当時の山口は萩の約二割規模の町で、武家屋敷移設は遅々として進まず、代わって利用されたのが豪商の別邸だった。萬代家も例に漏れず、桂、高杉、久坂らが度々利用した。英国から急遽帰国した伊藤と井上も、まずはここで藩情勢を見極めたという。現在十朋亭は「十朋亭維新館」として整備されており、幕末ファン必見の施設の一つである。
文・イラスト=古谷眞之助