ここ三ヶ月ばかり「池波正太郎」の世界に浸っている。今まで時代小説は私には縁が薄かった。ひょんなことから手に取った「鬼平犯科帳」。全てのシリーズを読み、深い溜息をついている。
「コロナ」という肉眼で見えない抽象的な菌に右往左往している毎日。具体に手を握りあえる友人に会えない寂しさ。報じられるニュースも明るいものは少ない。流されるCMは保険か健康食品が多く、見ていると自分は病気であるかのように思え、保険もないので、独り路上で息絶えるような気分になる。なにもかも信用ならない。
鬼平は良い。リアリズムの手法で人間の裸の姿がテンポのよい文体で書かれ身体に浸み込んでくる。善人と悪人の観念的な区別はない。『人間はよいこともしながら悪いこともし、悪いことをしながらよいことをしている』。泣けてくるではないか。
避けることのできぬ日々の営みが私にもあった。苦労したとはいわないが、抜き差しならないことも神や仏にすがったこともある。(鬼平の雰囲気で書いてみたのだが?)「池波正太郎記念文庫」から「鬼平・剣客・梅安の舞台」という江戸古地図を通販で買い求め、それを広げ鬼平の密偵になったつもりで歩く。
日本橋の南詰めから江戸橋へ出て、これを北へわたり、小網町の岸河を…鬼平と共に今日も歩く。