大内氏の氏寺だった興隆寺で、江戸時代末期まで450年間にわたって開かれていた「二月会」の再興を目的に、2009年に始まった「山寺コンサート」。以来、練習を重ねた子どもたちによる太鼓、雅楽、舞、太鼓、狂言や、若手芸術家による音楽、鷺流狂言保存会による狂言などが、毎年上演されてきた。
2019年の10回目を節目に、次の活動に向けた「充電期間」に入ったのだが、同実行委員会の米本太郎委員長が「コロナ禍の中、多くのイベントが中止や延期、オンラインでの配信になった。そんな中、いつまでも自粛するのではなく、『文化、芸術が今できること』を考え、一人でも多くの人が笑顔になってくれるように」と、復活開催を決めた。6月5日(土)午後1時から4時まで、野田神社能楽堂(山口市天花1)で開かれる。
当初は今年3月の開催予定だったが、延期を1月に決定。それだけに、新型コロナウイルス感染拡大防止には細心の注意を払っている。これまでは体育館など屋内が会場だったが、屋外での開催に。また、県外からの演奏者を招く予定にしていたが、6月20日(日)までの10都道府県における緊急事態宣言を受けて、舞台出演は山口県内在住者のみに変更した。
最初に上演されるのは「こども狂言教室」。6人の子どもたちが、昨年11月から毎週練習を積み重ねてきた「物まね」「不毒(ぶす)」「神鳴り」を披露する。
続いては、雅楽。県内の神主ら7人が、数曲を演奏する。
トリを飾るのは、山口県立大「芸能サークル『結-Yui-』」が創作したオリジナル狂言「南北昇降」。同サークルは、同大での授業をきっかけに誕生した「山口鷺流狂言保存会県大支部」が前身で、2020年2月に発足した。「南北昇降」は、活動が制限される中、リモートのみの活動で約1年間かけて完成。対面ができないため、アニメーション動画として、今年2月に公開された(https://www.youtube.com/watch?v=eW4IkqcW91M)。今回は、舞台用に台本を再編集し、初めて披露される。米本さんは「伝統芸能は昔のものをやるばかりと思われているが、いつの時代も新しいことを取り入れて創作してきた。『南北昇降』も、今だからこそできた新しい取り組みといえる」と、熱く語る。上演後には「結」のメンバーが、創作の経緯や思いを伝える時間も設けられている。
観覧は無料だが、活動継続への寄付が呼び掛けられる。1000円以上寄付した人には、創作狂言の内容にちなみ、外郎(田原屋、御堀堂、本多屋)が進呈される。
問い合わせは、米本委員長(TEL090-6406-0245)へ。
大内氏の氏寺・興隆寺と氏神・妙見社 身分に関係なく見ることができた「二月会」
大内氏の氏寺興隆寺(山口市大内氷上5)は、推古天皇21(613)年に琳聖太子が創建したと伝えられている。また天長4(827)年頃に、鷲頭山(下松市)から妙見社を勧請して氏神とした。周辺には多くの僧坊が立ち並ぶなど、中世には大いに栄えた。だが、大内氏滅亡後は衰退していき、今は江戸時代建造の興隆寺中興堂(釈迦堂)と妙見社、そして梵鐘(国指定重要文化財)だけが残っている。
二月会は、江戸時代末期まで、450年以上にわたって開催された。東大寺の修二会を擬した盛大なもので、旧暦の2月に祖先の霊を祭り、秋の豊作を願い行われていた。さまざまな儀式に加え、華麗な「童舞」や勇壮な「歩射」も披露され、身分に関係なく見ることができたという。
「山寺コンサート」は、「二月会で上演されていた芸能部分を再興し、地域の皆様の楽しみにしてもらおう」と、2009年に始められた。
檀家を持たない興隆寺はこれまで、有志による寄付で修繕・修復が行われてきた。2000年以降では、2001年に「修復・顕彰事業」がスタート。2002年に妙見社の床や柱を約640万円で、2004年に中興堂の回廊を約430万円で、2007年には中興堂の床を約320万円で修繕。2016年には、中興堂の天井や壁を約340万円かけて修復した。そして、2019年にはクラウドファンディングで約575万円の資金を調達。釈迦堂の屋根を銅板にふき替えた。だが、現在も妙見社本殿の雨漏りがひどく、屋根のふき替えにはさらに1400万円が必要だという。今回の山寺コンサートでは、興隆寺・妙見社の現状も伝えられる。