我が家の狭い庭の真ん中にモチノキがある。樹高五メートルくらいで、秋には小さな赤い実をつけ、小鳥が啄みに来る。
毎年、素人の私がなんとか剪定して、大きくならないようにしている。今年も高枝切り鋏を持ち自己流の剪定を始めた。たまに植木の指南本等も見るが上手はいかない。
外側から中心に向かって切り始める。高枝切り鋏は、一メートル三十センチしか伸びないので、最後に木の真ん中にある枝が一本残った。どの方向から鋏を突き入れても届かない。脚立に乗るのは不安なので、そのまま残した。とんがり帽子のようにそこだけ一本天に向かって直立している。
あれから一週間、切り残された枝は一メートル以上抜きんでて伸び、50枚くらいの葉をつけている。下の枝の葉は、まだ風を感じていないのに、もう天辺の葉は風を鋭く捕まえて、同じリズムを軽やかに刻んでいる。
光の乏しい曇りの日、一本天に向かって伸びる枝は、寂しそうに見える。独りで屹立するのは孤独であろう。仲間の枝と絡み合い作り出す安らぎの陰影がない。蝉もめったに高い枝には止まらない。
それでも私に切り残され、天に向かって伸びる一本の枝は、嬉しそうに見える。根から幹を通り届けられる命の水は、伸びよ、伸びよ、の祝福の流れにほかならない。伸びよ。