秋の日は、干物の匂ひがするよ
外苑の輔(ほ)道しろじろ、うちつづき、
千駄ヶ谷 森の梢(こずえ)のちろちろと
空を透かせて、われわれを
視守る 如し。
秋の日は、干物の匂ひがするよ
干物の、匂ひを嗅いで、うとうとと
秋蝉の鳴く声聞いて、われ睡る
人の世の、もの事すべて患(わづ)らはし
匂を嗅いで睡ります、ひとびとよ、
秋の日は、干物の匂ひがするよ
【ひとことコラム】〈(神宮)外苑〉などは東京の地名ですが、各地で見られる秋の情景です。高く晴れた空に慈愛に満ちた眼差しを感じながら、世俗を離れひとり昼寝を楽しもうとする詩人の姿。〈干物〉は「ひもの」とも「ほしもの」とも読めます。皆さんはどちらの匂いをイメージしますか?
中原中也記念館館長 中原 豊