そんな名前の虫はいないのに、なぜかだれでも知っている「ひ(く)っつき虫」。幼い頃、ひっつき虫が多い秋になるとセーターや靴下などの衣服にたくさん付けて帰って怒られた人も多いことでしょう。私は今でも野山で困っています。
みなさんもご承知のとおり「ひっつき虫」の正体は植物の実(果実)です。種類もひっつき方もさまざまで、これだけで図鑑があるくらいです。例えば、かぎづめ型の「オナモミ」のなかま。この型は多くて「ヤブジラミ」「ヌスビトハギ」「ミズヒキ」など。ほかにも粘液型の「メナモミ」「ノブキ」「チヂミザサ」。刺毛(逆さとげ)型の「センダングサ」のなかま、クリップ型の「イノコズチ」など。
「ひっつき虫」は、こうしてさまざまな方法で動物に付着して実を運んでもらい、生息域を広げます。これも動けない植物が生き残る作戦の一つなのです。
山口県立山口博物館 学芸課長 杉江 喜寿