新聞の投稿欄に『死ぬとどうなるのですか?』という質問を小学五年生の子が寄せていた。この年頃になると死というものを考え始めるのか、と感慨深かった。
私は、小学六年生まで父と一つの布団に寝ていた。私の父は警察官であった。枕元には黒い警電(警察専用線業務専用)が置いてある。事件が起こると警電が鳴る。父はすぐに起きて受話器を取る。私も目が覚めるが、起きていることを悟られないように息をつめて布団の中で電話の話を聞いている。事件の内容がわかる。窃盗、強盗、詐欺に喧嘩。聞き耳をたてる。作り事ではない人間の所業。昼間読んだ怪人二十面相の本と混ざり合う。頭の中で推理する。そのうち父は署に行くために私の横から出ていく。いなくなる。
父の去った布団の中で丸くなりながら、父が死んだら、このまま帰ってこなかったら、と初めて人間の死と別れということを思った。
六十数年も前のあの夜の、私が死を実感として考えた心臓のドキドキした日のことは、今でも手に汗が噴き出るほどリアルに覚えている。死を意識した最初の一頁だ。あれから何度も人の死に会い、永遠の別れを味わった。投稿した子もこれから考え続けるだろう。人間はどこから来てどこに行くのだろう、と。