今から半世紀ほど前、私が小学5年の時の話だが、「仙人」を名乗る男に「金縛りの術」をかけられたことがあった。信じられないかもしれないが学校行事の一シーンである。全校生徒700人が固唾を飲んで見守るなか、体育館の舞台でただ一人、「仙人」と対決する羽目になったのだ。というのもその直前、悪ガキ5人組にかけられた「空気投げの術」が、私にだけは全く効かず、一人、舞台に残ることを命じられたからである。空気を読まない少年VS本気モードに入ってしまった「仙人」。
さて、その結末はともかく、本日紹介するのは石を羊に変える術で知られる黄初平(こうしょうへい)の図。中国晋時代(265~420)の人物で、長きに亘って語り、描き継がれてきた正真正銘の仙人である。このシーンはまさに術をかけた瞬間。力の入った右手の先には、変身したばかりの羊がなんとか立ち上がろうとする様子が描かれている。
そういえば、私もあの対決の後、空気が読める男子に変身した気がしないでもない。
山口県立美術館副館長 河野 通孝