佐波川に架かる舟橋を思い浮かべると「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」という言葉を思い出してしまう。洪水ともなれば足止めを喰らって難儀する川越え。萩往還を歩く際に渡る唯一の一級河川・佐波川はこのように舟を並べ、その上に板を張って渡っていた。何度も洪水で流されたためこのような方式が採られたのだが、洪水となる前に舟は陸揚げされたから、当然大井川同様に通行止めとなった。萩藩では他に見られない橋で、他藩にもなかったのではないか。
舟橋が掛けられたのは寛保八年(1742)で、昭和十六年までの二百年間も使用された。イラストの風景も当然江戸期のものではなく、明治大正期のものと思われる。
文・イラスト=古谷眞之助