中型の段ボールに入れっぱなしにしていた古い写真を整理していたら、忘れていた面白い写真が出てくる。出てくる。
親友の君子さんが中学生時代、憧れの先輩の男子と二人で写った写真が出てきた。早速遠い北海道在住の彼女に送った。『ああ、私にも青春があったのねー』という手紙が来た。―忘れてはダメよ、あなたにもドキドキした立派な春があったのよ。
誰かの婚礼で我が一族が勢ぞろいしている変色した写真がある。皆、似たような顎の張った四角い顔をしている。私が直接会った人は誰もいない。名前と私との続き柄を親戚の者に訊いてみたいが、それを知っている者はもう誰もいない。写真の人達も未来の私を知らない。誰の記憶にもない一枚の写真。
いつものスーパーに行く道筋を変えてみた。右に曲がる所を左に遠回りしたら、春にはあった建物がなくなり草の茂る空き地になっていた。何か建築物があったことは覚えているが、それが何であったか忘れている。思い出せない。もう一つ角を曲がると、田圃や畑であった場所がきれいに整地され、区切られ売り出されていた。ここには、季節の花がいつも咲いて、畑で採れる作物の無人販売所もあった。人参を買った。これははっきりと覚えている。