2005年10月の1市4町(山口市、秋穂町、阿知須町、小郡町、徳地町)合併後、新・山口市の初代市長に就任し、以来4期16年にわたり市政をけん引してきた渡辺純忠氏が退任。昨年11月、伊藤和貴氏が「2代目」の山口市長に就任した。伊藤市長は市職員「生え抜き」で、2016年からは副市長として渡辺市政を支えてきた。「渡辺市政の継承」を掲げる新市長に、今後の市政運営などを聞いた。
(聞き手/サンデー山口社長 開作真人)
―山口市長に就任されてから1カ月半が経過しました。まずはご感想をお願いします。
伊藤 市民の皆様からの大きな期待を、しっかり受け止めております。また、自分の上にまだ決裁者がいる時は、今振り返ると甘さもあったかもしれません。自らが最終決裁者になり、副市長と市長の違いも、ひしひしと感じています。
―組織の大きさはさまざまですが、私ども企業経営者も選択・決断の連続です。リスクを恐れて守ってばかりだと企業は衰退してしまいます。チャレンジするには、失うかもしれない資金・借金が必要。そして、最終的にはトップが責任をとらなくてはなりません。
伊藤 「経営者は大変」だとあらためて感じました。特に今は、新型コロナウイルス感染症など、外的要因の大きい中で、会社・社員を守らなくてはいけない訳ですから。
―一刻も早いコロナの収束を願うばかりです。これまでの新型コロナ対策について、ご説明いただけますか。
伊藤 昨年は全国的に感染拡大が続き、市内でもクラスターが発生するなど、市民生活や地域経済に大きな影響がありました。本市におけるワクチン接種は、希望者の2回目までの接種がおおむね完了。12月からは医療従事者等への3回目の接種を始めています。また、市内事業者のコロナ禍における事業継続支援および市内消費喚起に向けて、「エール! やまぐちプレミアム共通商品券」の発行や、イベント開催などの支援にも取り組みました。
―今後についてはいかがでしょう。
伊藤 現在、新規感染者数は低い水準で落ち着いていますが、感染再拡大の可能性もあり、依然として予断を許さない状況です。加えて、飲食店など市内事業者の厳しい状況は続いています。だからこそ、コロナ禍から市民の皆様の健康と命、暮らしや雇用、地域経済を守り抜き、元気を取り戻すための取り組みを進めなければならないと考えています。そのため、3回目のワクチン接種など、徹底した感染拡大防止を進め、緊急的な支援が必要とされる場合には、躊躇(ちゅうちょ)なく対応していきます。同時に、市内事業者の事業継続や消費喚起、観光関連産業の再生および交流人口の回復など、全力で進めていきます。
「ずっと元気な山口」を目指して
―では、あらためて今後の市政運営について、お聞かせください。
伊藤 2005年10月の新市発足以降、本市の都市政策の柱とする「個性と安心の21地域づくり」と「広域県央中核都市づくり」を、引き続き掲げていきます。農山村部も都市部も「オール山口」で共存共栄する、というのは渡辺前市長との共通認識です。そして、地域脱炭素やデジタル技術の活用など新しい時代にも対応しつつ、「人づくり」にも力を入れていきたい。「ずっと元気な山口」の実現に向け、皆様と共に全力で取り組んでまいります。
新本庁舎は基本設計最終案
―現在地への建て替えが進められる山口市新本庁舎は、いよいよ基本設計の最終案がとりまとめられました。
伊藤 新本庁舎は、市民生活を支える「サービスセンター」の役割を持ち、元気な山口の礎づくりにつながるものだと考えます。今後、少子高齢化に伴う人口減少や、ソサエティ5.0の超スマート社会への突入など、大きな社会変化も予測される中、市職員が高いパフォーマンスを発揮することができ、利用者である市民目線に立ったサービスの提供ができる庁舎にしていかねばならないと考えています。最終案に対するパブリックコメント(市民意見)は、1月17日(月)まで募集中。多くのご意見を伺い、ひと・まち・未来に優しい本庁舎となるよう、整備を進めてまいります。
「デジタル市役所」を推進
―「デジタル市役所」についてもお聞かせください。
伊藤 技術が急速に進展し、スマートフォンも普及。「新たな生活様式」への対応も求められる中、デジタル技術をフル活用して行政サービスの在り方を変えるべきだと考えます。例えば、市役所窓口ではタブレット端末のタッチだけで各種確認や申請届出書の提出ができる、問い合わせにはAIが24時間365日自動応答する、粗大ごみの個別収集や地域交流センターの利用申し込みなどがスマートフォンでできる等々。地域交流センターなど身近な窓口から、本庁舎の職員と画面を介して相談できる仕組みも検討しています。
―高齢者など、デジタル機器が苦手な市民も多いと思いますが。
伊藤 現在、スマートフォンの便利機能や日常生活において活用できる場面等を紹介する教材づくりを進めています。加えて、地域交流センターなどでデジタル活用支援講座を開催し、気軽に相談できる環境も整えていきたいと考えています。
農林水産部を設置
―デジタル技術は、農林水産業の振興にも活用されるそうですね。
伊藤 市長選を通じて市内21地域へ出向き、多くの方々とお話する中で、農山村エリアの厳しい現状を目の当たりにし、三つの課題を感じました。一つ目は「担い手の確保・育成」、二つ目は「産地形成・ブランド化」、そして三つ目は「流通の強化」です。それらの課題解決に向け、デジタル技術の活用や地域脱炭素などスマートシティの取り組みを、農山村エリアで重点的に進めます。加えて、移住定住の促進を継続しつつ、外部人材の活用や、関係人口の創出、テレワークやワーケーションなど、新たな人の流れを呼び込む施策も進めます。
―具体的にはどのように取り組まれますか?
伊藤 こうした施策を展開するには、「農林水産業の振興」や「農山村エリアの発展」というミッションを明確化。効果的に向き合うための部局を設置し、専門性と機動力を向上させることが求められます。そこで、2022年度の予算編成と同時に、農林水産部設置に向けた推進体制を整備していきたいと考えています。
昨年4月オープン「山口市産業交流拠点施設」 今後は大規模コンベンションを誘致
―昨年4月、「山口市産業交流拠点施設」が、JR新山口駅北口にオープンしました。
伊藤 産業交流スペース「メグリバ」では、起業・創業支援やスタートアップの創出、ビジネスコミュニティの形成等を支援しています。加えて、やまぐち産業振興財団や山口商工会議所など、国・県・市の様々な産業支援機関も集積。産業支援のハブになると考えています。
―7月に運用開始されたKDDI維新ホールでは、各種催しが開催されています。
伊藤 人気アーティストのコンサートや平土間を活用した体験型イベントなど、市内外から多くの皆様にご来場いただいています。さらに、次世代通信規格「5G」を活用したリアルタイム配信ライブや、対面とオンラインを併用したハイブリッド型の医学会も開催。本施設の特長でもある優れた通信環境を、コロナ禍におけるニーズにも的確に対応させています。
―今後の活用についてはいかがでしょう。
伊藤 アフターコロナも見据え、交流人口の拡大や地域経済の活性化に大きく寄与する大規模コンベンションの誘致を積極的に進めます。新たな人の流れや経済効果を生み出し、湯田温泉を始めとする山口都市核、ひいては市全域に波及させていきたいと考えています。
―では、最後に市民に向け一言。
伊藤 今年は、私にとっての市政運営が実質的にスタートする年となります。新しい時代へのまちづくりに向けて、市民の皆様と共に歩んでいく、そういった1年にしたいと考えております。どうぞ、よろしくお願いいたします。