「コロナ禍」の生活が始まってから約2年が経過した。昨年2月から日本国内で始まったワクチン接種は、希望の持てる効果をもたらし、11月7日、国内では15カ月ぶりに新型コロナ感染での死亡数がゼロになった。しかし、同月11日に新型コロナウイルスの変異株の一つ「オミクロン株」が南アフリカで検出され、まだ予断を許さない状況が続いている。「第6波」など次の感染拡大から身を守るために知っておくべきこと、できることを、山口県環境保健センターの所長で、厚生労働省厚生科学審議会感染症部会委員なども務める医学博士・調恒明さんに聞いた。
※2021年12月24日時点での回答
「第6波」に備えた感染予防対策
2021年の流行は、まず都市部で起こり、その後の人の移動で山口県内に入り込み、親戚・友人らとの会食などによって感染が拡大していくという経過をたどった。4、5月は新型コロナウイルスの変異株「アルファ株」、8月は「デルタ株」との置き換わりと重なったことも大きな流行の理由だった。8月には高齢の方のワクチン接種が進み、重症化は少なくなり、医療に対する影響も最小限となった。
次の流行に備えて、マスク、手洗い、換気など日頃からの感染対策は続ける必要がある。
ワクチン追加(3回目)接種は必要?
新型コロナワクチン2回接種だけでは徐々に免疫力が落ちてきて、ワクチンを接種した後でも感染する「ブレイクスルー感染」が起こりやすくなる。3回目のワクチンを受けると、ウイルスを中和する血液中の“抗体”が増加し、従来のウイルス株だけでなく、変異株「オミクロン株」に対しても効果が期待できると言われている。
追加接種の対象は、初回(1、2回目)のワクチン接種後、原則8カ月以上を経過した人だが、ワクチンの供給、接種の準備状況などにより、時期が前倒しされる可能性もある。
前回と同様、3回目もmRNAワクチン(遺伝情報物質を投与するワクチン)が準備されており、メーカーが違っても原理的には同じで、十分な効果が期待される。また、副反応は2回目と同程度と言われており、オミクロン株への備えとしても受けるメリットのほうが大きい。
接種会場等については、住民票のある市・町の広報やホームページなどを参照のこと。
子どもへのワクチン接種の考え方と副反応の対処法
感染力の強い変異株の出現によって、小児の感染が増加している。これまで小児の重症者はそれほど多くはないが、感染者が増えると、特に基礎疾患がある場合は重症化することも考えられる。ワクチンの副反応は、発熱、局所の痛み、倦怠感などが見られるが、数日以内に回復する。特に接種の翌日は登校などに影響が出ることも考慮して接種を受けると良い。
思春期から若年成人にごくまれに、心筋炎、心膜炎が起こる例も報告されているので、1週間程度は胸の痛みや息切れなどの症状出現に気を付ける必要がある。
ワクチン接種は自分だけでなく、家族や職場など日頃接する人たちを感染から守るという意味もある。家族、学校などで話し合っておくことも重要だ。
他の感染症との同時感染
二つの病原体の同時感染は起こりうるが、まれなケースだと思われる。それよりも重要なことは、2020年から2021年にかけての冬はインフルエンザが「全く」と言ってよいほど発生しておらず、全ての人のインフルエンザに対する免疫力が低下していると考えられる。したがって、この冬にインフルエンザが流行すると広範囲の発生となり、重症者の増加が懸念される。特に高齢の方や基礎疾患のある人はインフルエンザワクチンを受けておくことが必要だ。
治療薬の見通しや有効性
治療薬は現在、2種類の飲み薬が開発されており、今後日本でも使えるようになると思われる。一つはウイルス核酸の複製を阻害するもので、もう一つはウイルスの殻が出来る時に必要なタンパク分解酵素を阻害するものだ。臨床試験で効果が証明されているものの、効果の強さは実際に使われてさらに明らかになる。どの変異株に対しても変わらない効果が期待されるので、導入されればまた一つウイルスと戦う武器が増えることになる。
「オミクロン株」の特徴と気を付けるポイント
2021年11月に南アフリカで発見されたオミクロン株は、ウイルスが細胞に侵入する際にカギとなるスパイクタンパク質に30カ所以上の変異がある。高い感染性とワクチンが効きにくくなる免役逃避能を持つことが予想されており、WHO=世界保健機関は、デルタ株やアルファ株などと同じ「懸念される変異株」の五つ目に指定し、監視体制を強化している。
3回目のワクチン接種はこの変異株に対しても効果が期待されているため、接種を進めていくことが重要となる。同株感染者の重症度については、南アフリカでは入院期間の短縮や、死亡率の減少など、軽症化の可能性が示唆されているが、症例の少なさなどから、現時点では評価は慎重になされるべきと思われる。